地球標準暦108年…
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翌日の昼を過ぎる頃、イリーナは帰宅することになった。ドーソンは自ら送り役となることを申し出、アルバートを伴ってハバロフを後にした。
母子の別れは、ダグラスが予想していたよりはるかにあっさりとしたものになった。イリーナは見送りに行ったボウやダグラスに深々と頭を下げ、ユウリには穏やかな笑みを見せてうなずいただけだった。
「カウンセリングが必要だよ。専門の人間をやろう」
車両がハバロフの出、門が閉じた後、ユウリには聞こえないようにぼそりとボウが言った。耳打ちされたダグラスの表情を複雑な色が過ぎっていったが、ボウはそれ以上は何も言わなかった。
母親と別れたユウリはというと、側にいるリイに肩を突かれて他愛ない会話を交わしていたようだ。振り返ると、ユウリがぷんと膨れているのが目に入った。
「だいたいなぁ、おまえみたいなチビが解析者になんてなれるもんか! おまえなんかより先におれの方が有名になってら。おれはもう、とっくに解析者になるための勉強を始めてるんだぞ」
「なるもん! リイなんかに絶対に負けないんだもん!」
頬を丸く膨らませて、勢いよくユウリは反撃している。リイはぷいっと横を向いた。幼なじみと言っていいこのふたりの関係は、きっとこの先も好ましい形で続いていくだろう、とふとダグラスは思った。
「おまえみたいに政府の階級も分かってない奴が? 勉強するんだったらそれくらい真っ先に覚えろよ。ダグラスはこの間、おまえのせいで認定試験に落ちたんだからな! 少尉少尉って、まだ少尉になってねぇよ!……いて」
ユウリに対するリイの揶揄はいつの間にか矛先を変えていて、ダグラスは軽く拳を作って頭を小突いてやった。そのまま無言で歩き出し、膨れたリイの喚き声は涼しい顔で聞き流すことにする。
「少尉だもん! 少尉はリイなんかよりずっとずっと偉いんだから!」
背後からユウリが上げる大声と、ボウがふたりをなだめる声がする。アンドレに世話になった恩を、今度は自分がユウリに返してやる番だ。だが今日のところはボウに任せておこう。
イリーナを見送るためにセンターを抜け出してきたので、ダグラスはできるだけ急いで戻らなくてはならなかった。しばらく進んだところで立ち止まり、振り返ってその旨を告げると、幼いユウリは小走りに駆け寄ってくる。
「あ、待てよ!」
追おうとするリイに向かってユウリは舌を突き出した。そのままダグラスを追い越し、全速力で駆け出す。
そのすぐ後をリイは追い、同じようにダグラスの側を通り抜けていった。前方で走り回るふたりの子どもを見ながらダグラスは苦い笑みを浮かべ、それから肩を震わせた。しばらくして後方から追いついてきたボウがダグラスの肩を叩き、ダグラスはふっと笑んで軽くうなずく。
ボウに背中を押される形で、ダグラスはセンターに向かう足どりを再開した。アンドレは今、長い眠りに入ってしまったけれども、それを嘆いてばかりいる暇などないし、そうする必要もない。最善の道だけを見据えてあの子たちとともに行こう。
ふたりの子どもの明るい笑い声は、ダグラスにそんなことを思わせるだけの力を持ってハバロフの大気を揺らしていた。
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