PIETA 第一章
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無防備な女騎士の目前に開けたのは、石壁の建物の前に広がっていたのと同じくらいの広さの空間で、野営地に選ばれた場所なのだろう、八角錐型の天幕と調理の跡があった。木々はまばらとは言え森の中に天幕を設けるのは得策とは思えなかったが、それは野営をする者の自由だ、部外者がけちをつけることではない。天幕の周囲には顔の下半分を薄絹で覆った女がひとりと軽装の男がひとり、それにこちらを向いている男がひとりいた。鎧を身にまとい、剣を腰に下げた風体から察するに、おそらくは騎士だろう。そしてこの三人の他には抜き身の剣を持ったふたりの騎士の姿が天幕の外にはあり、剣は、地面に膝をついた恰好の女騎士の行く手を阻むように交差していた。
「何者だ?」
剣を持った騎士のひとりが言った。女騎士は呆然と剣身を視線でたどり、少壮の騎士の険しい表情にたどり着く。
「何者だ? 返答なき場合は、この場で叩き斬ってもかまわんぞ」
目が合うのと同時に重ねて問うた騎士の声には、色濃い苛立ちがあった。表情は、強い警戒心に彩られていると言うよりも敵意に満ちていると言った方が近い。
女騎士は瞬き、わずかに唇を動かした。何でもいい、何かを答えなくては。交差した剣のうち片方、少壮の騎士の手なる剣には、今にも発せられそうな力が込められている。
「物騒な言い方はおやめなさい、ルーク」
何を言おうとしているのか、自分でも分からぬまま女騎士が口を開きかけた時、女騎士の正面、天幕の方向から声が発せられて、ルークと呼ばれた騎士の表情がぴくりと動いた。暗褐色の視線をちらりと動かした後、騎士は表情を消して肩越しに振り返る。
女騎士は大地に触れる膝に力を入れ、姿勢を大きくは変えないまでも、すぐに剣を逃れることのできる態勢を作った。ルークと呼ばれた騎士の剣のみならず、添えられていたもう一本の剣が眼前から遠のいたことに安堵しながら、わずかに後退りする。
天幕の入り口が揺れて、外にいた女と同様、顔の下半分を薄絹で隠した少女が姿を現した。左手を上げ、緩やかな癖のある金髪を背中側にそっと流して、少女は軽く首を傾げる。
「言ったでしょう? 今夜は星が動くと」
ルークと呼ばれた騎士と女騎士、そして少女自身を除く全員が、少女のせりふが終わるより早くその場にひざまずいた。ルークはと言うと小さく舌打ちをしただけで、周囲に倣おうとはしない。
「私には、星の行く先を読む力はありませんのでね。公女」
吐き捨てるように言うと、ルークは下げていた剣を鞘に収めた。口調には女騎士に向けたものと同様、強い苛立ちがあり、女騎士の目にルークは一団の中の浮いた存在に映る。
「力を持たぬ自覚があるのなら持てる者のことばに耳を傾けておくことよ、信じるかどうかは別として。持てる者を打ち破る決意があるのなら、それは時に大きな武器に代わるわ」
少女の口調は、詩を暗誦するように淡々としていた。薄絹に隠れた表情をうかがうことはできないが、声には気品と余裕がある。切り返されたルークのせりふを意に介したようすはなかった。
「もっとも、そういう道を選ぶかどうかは、持たぬ者の自由だけれどもね?」
冗談とも本気ともつかぬ口調で続けながら、少女はそっと足を踏み出した。左手を持ち上げ、薄絹の上から口もとをそっと抑えるそのしぐさに、女騎士は意味深な微笑を連想してぱちぱちと瞬く。
少女は迷いのない足どりで女騎士の眼前にたどり着くと、すっと左手を差し出した。女騎士の視界の端で、ルークはふいっと少女から視線をそらしてしまう。
「助けが必要ね。こちらへいらっしゃい」
何を言われたのか。
かけられたことばの意味をとっさに判断することができず、女騎士は乾いた目がかすかな痛みを訴えるまで呆然と少女を見上げていた。眼球の訴えに気づいてせわしなく瞬き、それから、ああ、そう言えば自分は何者かに追われていたのだった、と思い出す。ずっと後になれば、呑気なものだとそういう己を省みることもできようが、この時の女騎士に己の状態を把握するのは至難の業だった。そうと自覚せぬまま、少女を取り巻く空気に飲まれていたのである。
血糊のついた短剣を握ったまま、ふらりと女騎士は立ち上がりかけた。それはひどく緩慢とした動作で、はたから見れば苛立たしいものだったかもしれない。
チッ、とルークが舌を打ち鳴らすのが聞こえた。素早いとは言いがたい速度で女騎士がルークに視線を移しかけた時、見えたのは勢いよくこちらへ伸びてくる腕だ。
「動くなよ」
苛立ちの残る低い声が耳に入った瞬間、女騎士は突然の無重力感に襲われた。草むらに向かって背中から落ち、中途半端に柔らかい無数の枝の寝台の上で痛みに顔をしかめたとたん、先ほどかき分けたのと同じ草むらが目の前を覆って、視界が一気に暗くなる。突き飛ばされたのだと気づいたのはその後のことだった。
「これはこれは。誉れ高き新生近衛騎士団の方々ですかな。道を過たれでもしましたか」
抗議の声を上げる直前、幾重にも折り重なった草の幕の向こうからルークの声が聞こえてきた。その内容にぎょっとして、女騎士は動きを止める。
あの追っ手だ、と直感が頭の中を駆け抜けた。草むらから姿を現し、相手を確認したい欲求に駆られる。己の身の潔白を証言することすらできないのに、否、己が彼らの君主を傷つけた人間であるかもしれぬのに、欲求というものはどうやら、時に主の利に平然と反するようだった。
「失礼ですが、あなたがたは……?」
いぶかるような声が聞こえる。
「このあたり一帯は、道が険しく人気は少ない。旅行に向く土地ではありませんよ」
「失礼、人目を忍ぶ旅でしてね」
相手の正体を勘繰りながらも、決して非礼にはならぬよう努める警戒心に彩られた声に、苦笑混じりのルークの声が答えた。相手を茶化すような物言いは、この男の専売か。草むらの中で、女騎士はそっと息を漏らす。
間違いない、あの騎士たちだ。女騎士は胸の内側につぶやいた。若々しい声に聞き覚えがある。ルークの機転がなければ、女騎士は彼らに捕らわれていただろう。何のつもりでかばってくれたのかは分からないが、素直に感謝する必要があるな、と女騎士は考えた。
その感謝の対象となった騎士はと言えば、草むらの外で涼しい顔でふたりの騎士と対峙している。あっさりと切り返されたふたりの騎士のうちひとり、ブライアンは明らかに憮然とした顔を見せていた。天幕の外に出てひざまずいていた者たちは皆立ち上がり、どんな事態にも即座に対応できるといった態勢だ。
「かまわなくてよ、ルーク。ここまで来たのですもの」
ブライアンの表情を視界に捕らえ、少女は口もとにほほえみを浮かべた。この表情は薄絹に隠れて見えなかったが、相手の警戒心を緩めるためには穏やかな口調だけで足りたようだ。左手で緩い拳の形を作って口もとに当て、ふふ、と少女は軽く息を吹き出して笑った。
「驚かせて申し訳ありません、本意ではなかったのですけれど。ロマンダの小さな港町を国王から預かっております、オルド公爵家のイリーナと申します。この由緒ある国を平和へと導いた英雄王のお姿を一目拝見したくて参りました」
言いながら少女は、普段は身につけていない家紋入りの指輪を懐から取り出した。
「明日からは、とある方のお屋敷にお世話になります。あなたがたとも、どこかでお会いすることになるかもしれませんわね」
「公爵家の方々でしたか。これは失礼を」
顔の下半分にだけ笑みを浮かべてクロフォードは応じる。目は、指輪を追ってはいなかった。
「以前、うかがったことがあるのですが、公爵家の方々は御身に印をお持ちとか。代々の慣わしだそうですね」
「まあ」
クロフォードのせりふに、イリーナは素直に感嘆の声を返す。声も足音もなく、ルークはイリーナの側に寄った。
「ご存じでいらっしゃるのね。あまり人にお見せするようなものではありませんのよ。中央議会には、渋い顔をなさる方もおみえですし」
ことばを編みながら、イリーナはころころと笑った。取り出した指輪は改めて見せるまでもあるまい、と懐に収める。クロフォードの表情を、苦い笑みが通り抜けた。
「失礼いたしました。余計なことを」
イリーナに寄り添ったルークがいつでも剣を引き抜ける態勢にあるのを見てとってか、クロフォードは軽く頭を下げ、表情を改めた。その半歩後方では、ブライアンが話の筋がまったく見えないといった渋い表情を作っている。
「かまいませんわ、どうかお気になさらず。新生近衛騎士団参謀閣下の信頼厚い方々とお見受けしますわ。ところで」
顎を引いて瞬き、イリーナはすっと視線を上げた。薄茶色の瞳にきらりと光が宿ったような気がして、思わずブライアンは身構えた。イリーナの視線はクロフォードを向いている。
「人気のない場所と先ほどおっしゃいましたが、あなたがたはどうしてこのような場所へ? どこかへお出かけになるといったふうには見えませんが」
答えに逡巡したクロフォードの視界の中央で、呆れたようにため息をついてルークが前髪をかき上げた。クロフォードがぱちりと瞬く前にルークはすたすたと歩き出し、天幕のすぐ近くまでたどり着くとその場に腰を落ち着けてしまう。
「余計なことに口を突っ込む必要などありませんよ、あなたは。放っておくといつもこれだ」
「あら」
ルークを向き直り、ルークとイリーナの上を何事かと行き来するクロフォードとブライアンの視線などおかまいなしにイリーナは口を開いた。
「いつもそんな態度なのはあなたの方よ。もう」
軽く握った両の拳を胸の高さにまで上げて、イリーナはすねた口調で抗議した。ルークは平然と聞き流しているようで、そんなふたりの姿を見ていたクロフォードの表情に笑みが浮かぶ。
「お騒がせして申し訳ない。実は、人を探していたのです。その――旧知の騎士で……三年ほど前から、杳として行方が知れなかったのですが」
「では、その方をこの近辺で見かけたと……?」
肩越しに振り返って、イリーナはクロフォードのことばを継いだ。この時、イリーナの後方、草むらの中で呼吸を殺していた女騎士の心臓が躍ったことは言うまでもない。
「はい。最初は錯覚かと思ったのですが」
小さく首を傾げ、クロフォードに向き直ると、イリーナは左手を持ち上げて口もとを抑えた。ルークは行儀悪く座り込んだまま、たいして興味もなさそうにふたりの騎士を見ている。
「残念ですけど、今の段階ではお力にはなれませんわね。この場所に天幕を構えてしばらく経ちますが、わたくしども以外の人影は……」
薄絹に隠れてはっきりと見えないと承知してはいたが、思案顔を作って堂々とイリーナは言ってのけた。まったくたいした役者だよ、と自分のことは棚に上げてルークはあくびを噛み殺す。所在なさげなブライアンと目が合ったので、右手を上げて軽く振ってやった。
「これからわたくしたちはこの場所で夜を明かしますが、何かお力になれることもあるかもしれません。差し支えなければ、その方の特徴を教えてはいただけませんか」
「いえ、それは……」
クロフォードは肩越しにブライアンを振り返り、口をもごもごと動かした。ブライアンにまったく相手にしてもらえず、なんだ振られたか、と視線を何気なく動かしたルークは、女騎士を隠した草むらのあたりにほんの一時目を止める。
――傾いた太陽を反射する、ごくごく小さな光。
ぎくりとした。何事もなかったような顔を装い、そのまま右手に顔を背けてしまったが、不自然に思われはしなかったか。
そうだ、あの女騎士は血糊のついた短剣を握りしめていた。女騎士を草むらに隠したのはとっさの行動としては上出来だったと確信していたし、意思が伝わったのだろう、そちらからは何の音も聞こえてこないので安心していたのだが、まさかこんな落とし穴があろうとは。
静かに息を吸い、柄にもないと思いながら祈った。あの小さな光がふたりの騎士を呼んでしまわぬように。彼らと小さな光を引き寄せる何らかの力が働いてしまえば、イリーナの目論見はいとも簡単に崩れ去る。
ままよ。
努めてふたりの騎士に疑疑を持ったような表情を作り、ルークは不機嫌そうに眉をひそめて視線を投げかけることにした。気づかれてはならないと感じていることに気づかれてはならない、そうだ。こういう時は攻撃的になった方の勝ちだと思う。どのみち、この先顔を合わすかどうかも知れぬ相手だ。この場さえごまかしてしまえばそれでいい。
「そうですね、もしそれが私の知る騎士ならば……」
ややあってクロフォードが口を開いた時、その内容を耳にしてルークは表情を動かした。だがその後も、厳しい表情を作ることは忘れない。
「もともとは、ルザリア聖近衛騎士団に所属していた騎士です。女性ですが、高潔な方でいらっしゃいました。そう、ちょうどあなたのような金髪に濃茶の瞳で」
どうやらクロフォードとブライアンは、告白を決めた以後はイリーナただひとりに視点を定めたようだった。口を開いている手前の野郎はともかく、後ろの野郎がボンクラでよかったよ、とルークは首を回しながら内心につぶやく。
「あまりよくない噂を聞かないでもなかったので、その……いえ、私はたちの悪い風評と思っていたにすぎませんが」
頭をかきながらクロフォードが己のせりふを取り消そうと躍起になるのを聞いて、イリーナはくすくすと笑った。
「それだけ、親しいお相手だったということかしら。大切な方だったのでしょうね」
イリーナの揶揄を聞きながら、ルークは木々の間に開けた空を仰ぐ。確かにあの女は美人の部類に入りそうだな、とか、悪い噂を立てられた原因はやっかみなのかな、とか、なるべく緊張しないですみそうな方向に思考を持っていくことにした。
「いえ、そういったわけでは……。私の方が一方的に尊敬していたにすぎません、女性だてらにあれほどの剣技をお持ちの方はそういらっしゃいませんでしたし、何よりお心構えが立派だった――先方は、果たして私のことをご存じだったかどうか。その程度の関係です」
座ったままの姿勢からちらりと横目で見ると、クロフォードは照れ笑いを浮かべている。後ろの騎士もなかなかだが、こいつもどうして能天気な野郎だ。追った相手がどこでその話を聞いているとも知れぬのに、否、現に聞いているというのに、そんなことはありえないといった思いでいるに違いない。若いのか、経験が浅いのか、それとも上官が裏表のない人間なのか。おそらくはその全部だな、とルークはイリーナに顔を向けた。少なくともこいつらの上官は、見てくれはどうか知らないが、この公女ほどしたたかな人物ではないことだけは確かだ。
「それでは、きっと高名な方ね。わたくしのもとにまでお名前が聞こえるほどの……?」
胸にそっと左手を押し当て、イリーナはさりげなく語尾を上げた。
「ご存じかどうかは分かりませんが。アグリアス・オークスという名の騎士です。ルザリア聖近衛騎士団の中でも、現在の王妃の護衛隊を任せられるほどの方でした」
「まあ」
名前を聞き出したことに対する達成感をクロフォードの口にした内容への感銘に見事にすりかえたイリーナの後姿を見やり、ルークは立てた両膝の間に落ちるほどの勢いで首を前に振った。それからゆっくりと顔を上げると、何気なくこちらを見ていたふうのブライアンに再度手を振ってやる。
ブライアンは眉をひそめて首を振ったが、今度はどうにも気になってしかたがないらしく、視線をそらしてしまおうとはしなかった。何だこいつは、くらいに思っているのだろう。それでいい、おれはわずかばかりの刃の輝きから彼らの目をそらしておかなければならない。
「では、もしもそれらしいお姿を見かけるようなことがあれば――と言っても、わたくしたちはここから動くわけではありませんもの、お力にはなれないかもしれませんが、これからの道中も気を配ることにいたしますわ。もしもお力になれそうなことがあったなら、連絡の方法は……そうね、わたくしたちが厄介になる方に相談することにいたします。あなたがたもお気をつけて」
「ありがとうございます。お休みのところ、お邪魔しました」
引き際を心得ていると言うべきなのかどうか。イリーナの思惑にひとつとして反することなく、丁寧に頭まで下げてふたりの騎士は踵を返した。現れた方向に引き返していく彼らを見送る間中、一団の構成員は誰ひとりとして口を開かない。
やがて彼らの後姿が木々の向こうに消え、なおしばらくの時間が経ってから、ものも言わずにルークは立ち上がった。つかつかと草むらに向かって歩み、イリーナの隣を無言で通り過ぎると、先ほどからちらちらと目に入ってしかたのなかった短剣のすぐ側の草を荒々しく足でかき分ける。
「運がよかったな。……で、どうされるおつもりです、公女。突き出しますか」
せりふの途中でイリーナを見やり、否定されると分かりきっている問いをルークはあえて投げかけた。ぞんざいな口ぶりにイリーナが肩をすくめたのが見える。
視線を戻すと、さすがに呼吸が不自由だったのだろう、女騎士は肩を使った呼吸を繰り返していた。
「そのつもりなら最初からそうしているわ。分かっているでしょう」
想像したとおりの返事に、ルークはふん、と短く息を吐いた。くるりと体の向きを変え、天幕の側の調理跡まで歩む。
ルークが手際よく焚き火の準備を始めたことに気がついて、木偶人形よろしくその場に立っているだけだった軽装の男がさっと動いた。残るふたりの騎士は緊張から開放されたように息を吐き、女は草むらから出ようとしない女騎士に気遣わしげな視線を向ける。
ややあって、女騎士は音を立てて唾を飲み込んだ。意を決すると、草の上で固くなった四肢に命令を発して身を起こし、イリーナに向かってひざまずく。
「ご事情は存じませんが、ありがとうございました。わたしは――」
ことばに詰まった。
「お話、ゆっくりと聞くことができそうね。でも外のことは彼らに任せて、わたしたちは天幕に入りましょう」
穏やかな口調でイリーナは言った。ことばを詰まらせた理由を勘違いされたことを察するのは簡単だったが、とっさに何も言うことができず、女騎士はただ小さくうなずいた。いったい、何をどのように説明すればよいのだろう。ふたりの騎士は倒れていた男女のことには触れていかなかったが、そのことを省いては何ひとつ説明できそうにない。
イリーナは女騎士に先立ち、くるりと身をひるがえして天幕に引っ込んでしまった。その後に外にいた女が動き、先に入れと言うように天幕の入り口を持ち上げた姿勢で動きを止める。
説明しがたい重苦しい気持ちを抱え、女騎士は天幕に向かって心持ちと同様重い足を引きずって歩き始めた。手には血糊のついた短剣を握ったままだ。
短剣はいつしか体の一部と化したように、掌から離れようとはしなかった。
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