PIETA 第一章
page12
心臓の音に似せて、ところどころに呼吸を置きながら空気を震わせる音が聞こえる。
遠ざかる意識の暗闇に自ら別れを告げることを決めて瞼を開いた瞬間、それが荒々しく扉を叩く音だということに気づいた。覚醒直後の無音の世界から解き放たれて、オーランは勢いよく体を起こす。
隣に眠る女が身じろいだことに気づいて、しまった、と思ったが舌打ちをするのは控えた。なるべく音を立てないようにそっと寝台を降りると手近にあったローブをまとい、裸足のままで扉に近づく。取っ手を回す音と木がきしむ音に顔をしかめながら扉を開けると、通路側にはよく見知った若い騎士が立っていた。
「お休みのところを申し訳ありません……!」
最低限の儀礼としてなのだろう、早口に放たれたことばには焦りがにじんでいる。悪い予感に襲われて、何だ、とオーランは問いかけた。蝋燭を乗せた燭台を持って通路にたたずむ騎士の顔が蒼白に見える。
「王城から知らせがありました。先刻、国王夫妻が何者かに襲撃され、お怪我を負われたと――」
「何だとッ?」
報告に目をむき、音を立てぬよう気を配っていたことも忘れてオーランは声を上げた。騎士は唇を舐めてうなずき、続ける。
「王城の薬師団が治療に当たり、近衛騎士団は総出で周囲を探索しましたが、凶器も刺客も見つかっていません。バダム小隊長殿の命令で箝口令が敷かれています」
「すぐに行く!」
オーランは返事も待たずに部屋の中に向き直る。寝台の上にはバルマウフラが身を起こしていた。顔を見合わせたものの、声は何も交わさぬままオーランはあわてて身支度を整えにかかる。
箝口令の成果なのだろうか、ややあってバルマウフラとそろって飛び出した先の通路に人影は見当たらなかった。夜は静かに世界を包んでいる。邸内の沈黙を破らぬよう意識する心の余裕もなく、急を知らせた騎士とともにふたりは王城を目指した。
Copyright(C)2004−2005 こんぐ