PIETA 第一章
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もうずいぶんと長いこと、真っ暗な空を漂っている気がする。
瞼は、たぶん閉じているのだろうと思う。一寸の光もないこの暗闇では、視力などあってもなくても同じかもしれない。ぼんやりとした働きとは言え、思考は動いているようだから、呼吸が止まっているということはないだろう。ただ、遠い昔にはすべからく己の意思にかかわりなく働いていた五感のすべてが、今は深い眠りの中にあるような気がする。
頭蓋の中にはさまざまな風景や音が光り、時に行き来する。だが、それらを意識の中へ引きずりこむことは至難の業だった。何度となくそのように試みているはずなのに、一度も成功した試しがない。
脳裏に閃くものの正体が己の記憶の断片であることは分かっていた。風景と音とが別々にやってくることもあれば、いずれかにいずれかが重なることもある。だが、暗闇の中に目をこらせばこらすほど、あるいは耳をすませばすますほど、それらは遠く離れて消えてしまう。
我が手につかむものがないことは、闇の中に苛立ちを呼んだ。剣がほしい。
そう思った瞬間だった。拳が作られたという感触があった。その次の瞬間には、自分が四肢の存在を忘れてしまっていたことに気づいて愕然とした。もしかしたらわたしは、とんでもない悪夢の中をさまよっているのかもしれない。
――剣だ。この右手に。
女の身でありながら、剣を持つ道を選んで――戦乱の時代のことだ、珍しい話ではない――そう、それ以来、片時も剣を我が身から離したことはない。剣を携えて歩む道は長い旅路を思わせた。否、まさに自分は得がたい仲間とともに長い旅に発ち、ここにたどりついたのだ。旅は終わった。だが、それは剣を手放す理由としては足らない。
剣を。もう一度この手に剣を。
女騎士は強く念じた。だが念じることは霞をつかむに似て、わずかな隙に思考は闇に解けてすべての力を失ってしまいそうだ。これではいけない。
この右手に剣を、この胸に強い意志を。散り散りになった記憶の断片をつなぎ合わせる力を、どうか。
意思に反して、体と心の両方が極限状態にある時のように、時折女騎士の心身は闇に屈した。だが、だからと言ってそのまま消失してしまうというわけではなかった。何度となく闇の中によみがえり、何度となく闇の侵食を受け、交互にそれを繰り返すうちに、はるか遠くにただひとつ、消えない風景があることに気づく。
残像のように曖昧に揺れるその風景には、確かに人の影を見てとることができた。その風景に近づこうとした瞬間にはふたたび闇が力を増したけれども、次の瞬間にはふっと意識が風景の真上をかすめ、その全体像が網膜を流れた気がした。そうして己が感性で見た風景は、さきほどから明滅する記憶の断片のように消え去りはしなかった。風景は瞼の裏に焼きつき、今度ははっきりと思い出すことができる。
鮮やかな風景を脳裏に宿すが早いか、遠くからやってくる音のひとつがそれに重なった。ざわめきを伴った声は、遠くから誰かを呼んでいる。
複数のその声は、自分ではない誰かの名前を繰り返しているようだった。誰を呼んでいるのかは、どんなに意識をすませても聞き取ることができない。
暗闇を丸く切り取ったような視界の中には、一組の男女が倒れていた。手入れのされない広い庭には草が生え、思い思いに地を這っている。そこには生あるものの力強い律動は感じられず、闇の中で女騎士は慄然とした。
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